仕事と育児は「毎日が綱渡りのようだった」 芦田多恵さん、すべきことに集中すると割り切った過去
デザイナーとして、そして母として、激動の時代を駆け抜けてきた芦田多恵さん。
50代を迎えた今、芦田さんが大切にしているのは、静かで穏やかな「自分の時間」。多忙な日々のなかでも、自分を客観的に見つめ、前向きな気持ちへと整えてくれる——そんな習慣や思考法には、毎日を心地よく生きるためのヒントが詰まっています。
仕事や家事、育児に追われるなかで、ふと自分を見失いそうになることも。自分らしく年齢を重ねることの豊かさ、そして心を整えることの大切さ——。『STORY』読者の皆さんへ、芦田さんからのメッセージをお届けします。
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60年会社を見守り続けた母の嬉しそうな笑顔が忘れられません
父のミューズでもあり、デザイナーとして右腕でもあり、公私共に最大のパートナーだった母。たった15分でも姿が見えないと母の姿を探す父の姿…よく覚えています。あの頃は今と違って、女性が働くことに対して偏見を抱かれていた時代でもあり、公的な支援もありませんでしたし、母はとても苦労したと思います。小さい頃の私は、周りの家では帰宅したら必ず母親がいて手作りのおやつがあるのが当たり前なのに、なんでうちだけ?と不満を抱くこともありました。きっと母も後ろ髪を引かれる思いだったと思いますが、一人の女性としての生き方をちゃんと貫いてくれたおかげで、私もその背中を追うことができました。留学中の時もそうでしたが、母って少しスパルタなところがあって(笑)。一人目の出産後、「元気なのだし、戻っちゃいなさいよ」と母から言われ(え?産休ってもっと長いんじゃないの?)と思いながらも3週間半で職場復帰しました。
メゾン創立60周年記念のショーではただ一人、会社を見守り続けた母を紹介させていただきましたが、あの母の嬉しそうな笑顔は今も鮮明に目に浮かびます。私の背中を押し続け、生涯現役という言葉通りに生き抜いた母でしたが、今年の初めに突然、帰らぬ旅へと出てしまいました。仲の良かった父と母、天国でもきっと少しも離れず一緒にいるのでしょう。
多忙を極めていた日々「ママにいて欲しかった」と長女に未だに言われます
運命的な出会いを経て、半年も経たずして結婚。30歳で長女、35歳で長男が生まれました。産後直後から自分の手で子育てをしたい気持ちが強かったのですが、身体が悲鳴を上げてしまって。主人のアドバイスもあって、人に任せられるところは任せて、私がすべきことに全力を尽くそうと気持ちを切り替えました。
とはいえ、仕事と子育てをバランスよく…というのも難しく、日々綱渡りのような生活でした。反抗期が続いている(笑)長女からは今だに「ママはいて欲しい時にいてくれなかった」と言われることも‥幼い頃の私を思い出します。
30代から40代にかけては記憶がないほど多忙を極めていました。運よく子どもの同級生のママたちが私のかつての級友ということも幸いし、「あなた、忙しいから知らないと思うんだけど、明日石鹸の空き箱が学校に必要よ」…などと、たくさん助けてもらいました。子育てに関して、ほんと“ポンコツ”なんですよ、私(笑)。
子どもたちに望むこと。あんまりないかもしれません。私自身が好きなことを突き詰めてきましたから、子どもたちも、好きなことを追求してもらいたいです。
思い描く50代になれてないと気づき、自分の心と体に向き合うように
50歳を迎えた年は、メゾンの50周年記念でアーカイブ展を開催するなどイベントが続いたこともあり、周りからお祝いをしてもらっても全く私の心に響いていませんでした。
でも、51歳になったときに、(50代はもっと洗練された大人なはずなのに)とパニックに陥ってしまったんです。40代から何も変わっていない、ただただ慌ただしい毎日を送っている我が身に焦りを感じました。
突然ですが‥。と、「私はこれから自分のために生きますから」と家族に宣言!夫にも子どもにも「はいどうぞ」と淡々と返されましたけれども(笑)。それまでは家や家族を優先することが多かったのですが、自分の好みや、自分のための時間をまず考えるようになって、見える世界が変わりました。
不思議なことに、その後10ヶ月くらいの間に、8人もの著名な占い師にめぐり合ったんです。自分から探すわけでもなく友人からの紹介が重なって。私が生きてきた道のりの答え合わせをするかのようでしたね。腑に落ちる感覚もあり、それを境に、私の心の在り方もまた変わり始めたように思います。
体型や体調の変化に対しても、積極的にアプローチしました。長年の友人である藤原紀香さんはとても優しく、いいものを見つけるといつも教えてくれます。彼女の勧めで始めて15年になる加圧トレーニングは今の私の健やかな毎日を支えてくれています。
瞑想との出会い 毎日15分の瞑想で心配性な自分を客観的に、前向きに整えます
コロナ禍の到来による社会の激変に伴い、私たちの創作活動や関連するすべてのプロジェクトは全て止まってしまいました。今までひとときも止まることなく続けてこられた活動、そしてクリエイティブなマインドを失ってしまったら、私はどうしたら良いのだろうと、恐怖で涙が止まらなくなりました。
まさにそのようなどん底の真っ只中にいたとき、私を救うきっかけとなったのが、瞑想との出会いでした。独学ですが、毎朝15分間の瞑想をすると自分が何に囚われているのか明白になるんです。
人って、一日中、過去の後悔か未来の心配のことしか考えてばかり、そこには今のこの瞬間が存在していない。私自身すごい心配性なので、頭に浮かぶことはそんなことばかり。起こってしまった過去の誤ちや、ほぼ起こるはずもない未来の心配…そんなことをずっと考えて一日過ごしていることに気付いたんです。そんな馬鹿らしいこと、もうやめよう!となるじゃないですか!
自分に対して客観的に考えられるようになって、前向きにもなれました。瞑想をしていると時折、父や母の声も聞こえてくるように思うんです。不思議ですよね。
STORY読者へのメッセージ
運はただただ待つ姿勢だけではなく引き寄せるものだとも思うんです。弱気になるときももちろんあると思いますが、やっぱり物事をポジティブに考えることが大切だと思います。何事も背中合わせですよね。すごい良いことだって探せば悪いこともある…それを一生懸命探しちゃうマインドは残念。せっかくであれば、良いことにフォーカスを当てて、とにかくポジティブに考えるようにしたら、ポジティブなことが引き寄せられるはずです。STORY読者の皆さん、40代であればまだまだ可能性がありますし、変化の時代だからこそ、その変化を楽しむくらいの気持ちで生きていただきたいなと思います。
Tae Ashida プロフィール
スイスのル・ローゼイ高校を卒業後、アメリカのロードアイランド造形大学アパレルデザイン科を卒業、芸術学士号を取得。 1991年にコレクションデビュー。以降、年2回新作を発表。2012年第54回FECJ特別賞受賞。 2018年に父・故芦田淳を引き継ぎ「ジュンアシダ」のクリエイティブディレクターに就任。メゾン創立当時から常にクオリティの高いものづくりをポリシーに掲げ、“エレガント&プラクティカル”を コンセプトに、革新的に変動の時代を駆け抜けている。 2019年メンズコレクションをローンチ。ロイヤルファミリーやファーストレディをはじめ、各界の著名人や俳優などを顧客に持ち、エレガントでモダンなモードを提案、 東京のファッションシーンを牽引する。 令和6年度文化庁長官特別表彰を受賞。2026年デビュー35周年を迎える。
撮影/田中駿伍 取材・文/竹永久美子 構成/玉榮日菜子
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