東村アキコさん「テンパリスト」の息子が高3に。最強の親友みたいな存在です

 

『東京タラレバ娘』『海月姫』など映像化された作品も多く、幅広い世代に愛される漫画家の東村アキコさん。代表作の一つとなった育児漫画にも登場した息子の「ごっちゃん」は現在高3で進路を考える時期に。仕事と育児に翻弄された30代を経て、息子は「推しであり最強の親友」と語る東村さんに今の心境を伺いました。

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壁に向かって「もう育児はムリ!」と叫んだ

——東村さんの育児エッセイ漫画『ママはテンパリスト』は大ベストセラーになりました。VERY読者にもファンはたくさんいます。

息子は18歳になりました。小さいころは漫画に描いた通り、しっちゃかめっちゃかでしたが、今や全然手がかからない良い子。今どきの男の子って、「親と一緒にいるなんて恥ずかしい」感覚があまりないようで、旅行にも付き合ってくれます。自分にとっての“最推し”ともいえる息子が、今はなんでも話せる親友兼推しとして、私の行きたいところに着いてきてくれるんです。推しと旅行できるなんて最高じゃないですか? 学校の友だち同士でこっそり私のことを「アキコ」って呼んでいるらしくて、それもなんだかうれしかったですね。

息子もK-POP好きなので、今はオタ活の相棒です。彼は韓国ドラマも好きで、「将来は韓ドラの制作スタッフになりたい」と言っています。高校卒業後は韓国で進学するつもりのようです。息子の成長はうれしいけれど、子離れのことを考えると今から涙が出そう……というか、すでに毎晩泣いています。18年間、あっという間でしたね。「テンパリ」にも描いた通り、育児は本当に大変でしたが、彼が言葉をしゃべれるようになって、意思疎通ができるようになってからは本当にラクになった感覚はありました。

——ほぼシングルで子育てされています。子育てと仕事の両立は大変なことも多かったのではないでしょうか。

28歳で妊娠、29歳で出産。出産後はほぼ別居で、すぐに離婚しました。その後、2度目の結婚生活は短いものだったので、ずっとシングルマザーです。出産直後に初めての週刊誌連載が始まって、おんぶしながらマンガを描いていました。待機児童も経験しましたし、保育園に入るために引っ越しもしました。子どもは〆切のタイミングで熱を出すし、小児ぜんそくで入院した際は病室に紙とペンを持ち込んで付き添いながらマンガを描いたことも。振り返るとまあまあ地獄でしたね。あまりにつらすぎて、煮詰まったときは夜中に一人で壁に向かって「子育てはもうこれ以上ムリ!」と叫んでいました。

でも不思議と孤独は感じませんでした。アシスタントや両親がサポートしてくれたこと、そしてまだ30代で体力があったことも大きかったです。それでも毎日「とにかく寝たい」の一心。育児が大変すぎて、せっかくの連載も何度「辞めさせてください」と泣きついたことか。打ち切りになっても構わない!と半ばヤケクソで描いた父のエピソードがウケて長寿連載になっちゃって。分からないものですよね。

 

 

「公園遊び」と「読み聞かせ」は無理にやらなくてもよかった

——今振り返ってみて「ここまでがんばらなくてもよかったかも」と思うことはありますか?

あんなに無理して公園に連れて行かなくてもよかったかな? 多くのママたちも経験があると思うのですが、なるべく自然に触れさせたいと思って、どんなに寒い日でも公園に連れて行っていたんですよ。でも寒くて風邪は引くし、花粉症だから春も秋もつらいし、とにかくキツかった……。息子が小さいころ、桜の木になっていたさくらんぼを誤って口に入れてしまい、派手にお腹を壊したことがありました。その瞬間「今日はモールに連れて行けばよかった!」と後悔しました。なぜあんな都会の公園で、無理して木や草を見せなきゃいけないと思ったんだろう……。私にとっては本当に苦行でしたね。ショッピングモールなら夏は涼しくて冬は暖かいし、クルマも来なくて安全ですから。

反対に「やらなくても特に影響なかったな」と思ったのが、絵本の読み聞かせ。本好きの子に育てたいから読み聞かせはがんばろうと思っていたのに、あまりの疲労で毎晩寝落ち。それでも大きくなったら勝手に読書をするようになったので、活字が好きになるかどうかは本人の個性なのかも、と思っています。ママたちも、今育児でしんどいことがあったら無理してがんばらなくていいんですよ!

 

すべて「好きなようにやらせる」よりも、道を指し示したほうがいい

——お子さんに反抗期はありましたか?

よくある話ですが、小学校4〜6年生のころはよくゲームの制限時間で揉めました。でも中学校に進学したあたりで、自然と収まりましたね。小学校から私立の一貫校に入れてしまったので、中学受験の経験はありません。お受験した理由も、周りに「公立小はPTAが大変だよ」と言われて、私には絶対にムリ!!と思って。

よく「子どもの好きなようにやらせてあげるべき」なんて話を聞きますが、私はある程度レールを敷いてあげたほうがいいと思うんですよね。子どもはまだ人生経験が少ないから、「何がやりたいか」「どんな仕事に就きたいか」なんて聞いても、答えられる範囲が限られてしまいます。だからある程度、大人が「こんな道があるよ」と示してあげたほうがいいと思う。だから息子が韓国ドラマにハマったと確信した瞬間に、「韓国語を本格的にやってみたら?」とレッスンをお膳立てしました。

「こういう道に進みなさい」と親の理想を押し付けるのは良くないと思います。でも「こんな道もあるよ」と指し示してあげることはできる。バランスよく間を取ってあげられるといいですよね。

最新エッセイ『もしもし、アッコちゃん?~漫画と電話とチキン南蛮~』(光文社)

 

 

電電公社勤めの一族に生まれ、子どものころからお絵かきが得意だったアッコちゃん。利発でちょっとやんちゃ、子どもながら好みがはっきりしているアッコちゃんは、周囲の大人を振り回しつつ、宮崎の自然とのんびりした人々の気質にはぐくまれ時には鍛えられ、才能を開花させていきます。アッコちゃんの成長と日本の人気漫画の変遷をタテ糸に、電話の進化をヨコ糸に、昭和末期から令和までの著者の半生を“笑い”とともに綴ります。

 

profile

東村アキコさん(ひがしむらあきこ)

漫画家。1975年生まれ、宮崎県出身。1999年、「フルーツこうもり」でデビュー。『ママはテンパリスト』が100万部を超えるヒットとなる。自身の半生を描いた『かくかくしかじか』、映画化された『海月姫』(講談社漫画賞)をはじめ、『東京タラレバ娘』(米国アイズナー賞最優秀アジア作品賞)などメディア化作品も多く、同年代の女性の強い共感を得ている。2020年には『偽装不倫』でのウェブトゥーンなどへの功績で、芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞、『雪花の虎』でアングレーム国際漫画祭ヤングアダルト賞受賞など、先駆的な活動で日本の漫画界を牽引するのみならず、韓国、米国、フランスなど海外でも広く読者に支持されている。

 

取材・文/樋口可奈子

撮影/松蔭浩之

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